郡山医療生活協同組合 桑野協立病院

暮らしに寄り添う、みんなのびょういん

病院について

診療のご案内

整形外科のご案内

肩関節と私たち

【胸郭・鎖骨と肩関節】

私たちは上肢をさまざまに使い、日常生活を過ごしています。

例えば、コーヒーカップを口元へ、車のハンドルを操作、後部座席から荷物を取る、頭髪を櫛で整える、ズボンを上げる、後ろのポケットから財布を出す、荷物を棚に上げる、ボールを投げる、ラケットを振るなど。肩関節に問題を起こすと、このような当たり前のことさえうまくできません。50歳を過ぎると肩関節の病気は増え、とりわけ五十肩(特発性凍結肩)は病名のとおり50歳代です。ではその原因は加齢、生活習慣、ストレスでしょうか。予防するにはどうすれば良いでしょうか。この疑問に答えた書物、出会ったことはありません。それなら私たちで答えを探す旅に出かける以外ありません。しばらくご一緒に旅をしませんか。

肩関節とは肩甲骨と上腕骨の間の関節を意味します。

もちろん肩関節で腕を挙げ下げしますが、同時に肩甲骨、鎖骨、胸椎、肋骨を動かしています(図1)。手や肩関節の動きならだれでも意識できますが、肩甲骨、鎖骨、胸椎、ましてや肋骨の動きを感じる人はいないでしょう。そのような人がいれば、私が教えを受けたいぐらいです。学問的にもそれらの動きに関する論文はほとんどありません。肩関節と肩甲骨、鎖骨、胸椎、肋骨の関係を理解するため、人の組織に例えてみましょう。胸椎、肋骨、鎖骨(中枢部)、肩甲骨(中間管理職)、肩関節(社員)から構成された会社です。宴会、ゴルフに忙しく会社の仕事をおろそかにしている中枢部。一方、現場にいる中間管理職と社員の頑張りでなんとか利益を上げてきましたが、中間管理職がストレスで入院しました。社員たちも疲れ、とうとう仕事への意欲をなくしました(肩関節の障害)。本来あるべき姿は、中枢部の努力で中間管理職や社員が意欲的に働ける会社ではないでしょうか。人の社会・組織と人体の構造・機能は同じはずです。であれば胸椎、肋骨、鎖骨など意識できない中枢の動きによって、肩甲骨や肩関節も気持ちよく動けるのではないでしよう。宴会、ゴルフに忙しく仕事しない中枢部とは、年齢、仕事や心身ストレスに影響される姿勢悪化のため動きの低下した胸椎、肋骨、鎖骨と考えられます。

図1.正常な人の上肢挙上に伴う骨の動き
  • 腕を下した状態

    腕を下した状態
  • 腕を挙げた状態

    腕を挙げた状態

腕を下げた状態と挙げた状態を比較すると、肋骨・鎖骨・肩甲骨・上腕の動きがわかる。 肋骨は上がり、鎖骨は後ろに移動、肩甲骨は上方回旋、上腕骨は回旋する。

 男女を比較した私たちのデータから、女性の肋骨や肩甲骨は動きません。その代り肩関節をたくさん動かします(図2)。そうすると、女性で肩を悪くする確率は高くなります。若い人と中年を比較すると、肋骨や肩甲骨の動きが少ない中年で肩関節に問題を起こしやすいと推測できます。また、腱板断裂の痛みを生じた中年の胸椎、肋骨運動様式は変化します(図3)。肩関節疾患の頻度はこの性差、年齢分布にそっています。
 肩関節の怪我を除けば、胸椎、肋骨、鎖骨など中枢部の動きの低下に伴い、肩関節に問題を起こすと考えられます。肩関節を良好な状態に保つために、胸椎、肋骨、鎖骨など胸郭の運動を取り入れる必要があるでしょう。例えば、私の場合1時間コンピュータに向かうと、背負子を持つように長い棒を使い胸郭の柔軟運動をし、自分の胸郭・肩関節の状態を保っています。肩関節を悪くして病院に来る前に、肩関節の環境を整える意味で、自分で胸椎や肋骨を動かす運動を考えなければと感じる昨今です。6年経過しこの考え方が正しいという確信が増しました。5-6年前から「肩甲骨の動き」とスポーツ雑誌で言われるようになりましたが、あと2-3年すると「肋骨を動かす」という記事が多くなると予想されますが、肋骨の動き?どうするのというヒトが多いでしょうね。

図2.男性と女性の肋骨運動量の違い(文献2から)

青線の男性に比べ、赤線で示される女性の肋骨運動量は5~10mm動きが少ない。これは乳房やブラージャーの影響と考えられる。それだけでなく、肩甲骨の動きも少なく、女性の方が肩関節を使う度合が大きい。

図3.若い人と中年の肋骨運動(文献3から)

第4・5肋骨の運動量が大きく、若年に比べ中年の運動量は減少RCT (腱板断裂患者)では運動量の多い肋骨は第7肋骨に移動する。

【肩甲骨と腱板筋群の関係】
 やっと、肩甲骨と腱板筋の関係が解剖と筋電図からわかってきました。腱板筋は肩関節の安定性を保つのが基本的役目、その上で骨頭回旋の力源となります。しかし、腱板筋の使い方が全員違うことには驚かされました。肩甲骨は常に先回りし骨頭と肩甲骨の関節窩の良好な位置関係を保とうとします。肩甲骨を動かすのは大きな肩甲骨周囲筋ですが、腱板筋の細かい調整によって骨頭と関節窩の安定性を維持します。このように腱板筋により上腕骨と肩甲骨は良好な関係を維持できます。

[文 献]
1. 矢野雄一郎, 浜田純一郎, 玉井和哉, 吉崎邦夫, 佐原亮, 遠藤和博, 五十嵐絵美. 肩挙上における 2種類の肩甲骨運動-上腕外旋角度と筋活動の相違. 肩関節35: 305-308, 2011.
2. 立原久義, 浜田純一郎, 山口光國, 村木孝行. 健常者の上肢挙上に伴う胸郭と肩甲骨の運動.肩関節36: 795-798, 2012.
3. 立原久義, 浜田純一郎ほか. 加齢変化および腱板断裂の肋骨運動変化. 肩関節37, 2013